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収益結晶化理論

論文の先行研究を調べていて『収益結晶化理論』という本に出会った。副題は『TKC経営指標』における「優良企業の研究」。著者は宮田矢八郎 産能大学経営学部教授。本の概要は副題にもあるように22万7000社の正確な財務データをベースに10大項目、96中項目、320小項目のアンケートを6021社から回収。財務分析と統計調査、経営者へのインタビューから高収益中小企業の実証研究を著したものである。

経営学における実証研究の系譜としては、メイヨー(『産業界における人間問題 1933)、アベグレン(『日本の経営』 1958)、チャンドラー(『経営戦略と組織』 1962)、ハーズバーグ(『仕事と人間性』 1966)、ローレンス&ローシュ(『組織の条件適応理論 1967)、ミンツバーグ(『マネジャーの仕事 1973)、オオウチ(『セオリーD』 1981)、ピーターズ&ウォーターマン『エクセレント・カンパニー 1982)、コリンズ&ポラス(ビジョナリー・カンパニー 1994)、野中郁次郎&竹中弘高(『知識創造企業』 1995)などがあげられる。

マイヨーやハーズバーグ、ミンツバーグのように、いわば臨床的なデータ集積から理論や公式を見出すもの、アベグレンや野中&竹中、コリンズ&ポラス、ピーターズ&ウォーターマンのように10社から60社程度の企業の実証研究から、同様に公式や理論を見出すもの(アベグレンは53社、野中らは10数社、コリンズらは18社、ピーターズらは62社の事例研究)、チャンドラーのように大企業4社の事例研究の成果(事業部制の構築)を大手企業70社にあてはめて再検証するなど、実証研究のあり方もさまざまである。

本研究では22万6661社の財務データとそのなかの1万1476社の財務データの比較研究から中小企業の高収益要因を特定している。さらに1万1476社のなかの5156社のアンケート分析から具体的な高収益要因抽出し、11社の面談調査を加味して両者を整合的、有機的に結合し、高収益要因を「収益結晶化理論」として一般化している。膨大な数である。圧倒的な説得力である。

同書では坂本先生が説かれていることの多くが立証されている。一例をあげると、経営理念の機能と有効性について。10の質問により多角的な確認がなされている。業績優良企業5156社のなかで経営理念があると回答した企業は、売上(年商)規模別に2.5億円未満47%、2.5億円~10億円61%、10~30億円69%、30億円以上76%。同じく経常利益額では3000万円未満49%、3000万円~1億円61%、1億円~3億円61%、1~3億円69%、3億円以上78%とある。このように売上規模、経常利益額ともに経営理念の存在と正の相関があるなどである。

4月までの長期休暇前に『収益結晶化理論』から刺激的で大きな課題をいただいた。早いもので今日が今年度ゼミの最終日。坂本先生はじめ執行部、諸先輩、同期の皆さまとの出会いとご指導、ご厚誼にこの場を借りて感謝します。ありがとうございます。

春木清隆


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